先週、枚方市内の学習塾で冬休み期間中の子どもたちを対象にした音読教室を開きました。参加したのは小学4年生から6年生までの児童6人。男の子3人、女の子3人でした。実は、この試みは昨年春からずっとあたためてきた内容でした。
私が週に一度、朗読の指導をしている塾講師の男性。この先生は、小学生の音読に力を入れたいとの思いから、まずご自身が、本を声に出して読むコツを学ぼうと大阪朗読楽に問い合わせてこられました。去年の春から9カ月、個人レッスンを行い、最初の頃は長時間にわたって声を出して読むことにかなり疲れていらっしゃっいましたが、今では集中力が途切れることなく、毎回それぞれの箇所で私がアドバイスした内容を見事に読みに反映させておられます。この講師の男性は、塾で本を読むときの子どもたちのいきいきとした姿が大好きだとおっしゃいます。なかにはうまく読めない児童もいます。逆に上手に読む小学生もいます。そうした子どもたちに的確なアドバイスや指導をして、うまく読めない子には本を読むのが好きになるように、そして上手に読める児童には、より豊かな表現をしてもらおうと、私のレッスンを受けてこられました。そうしたつながりの中で、今回、子どもたちを集めて、私が直接音読の指導をしてみて、その変化や反応を見ようということになったのです。
音読教室で子どもたちが読んだ作品は「茂吉のねこ」と「三年とうげ」です。「茂吉のねこ」の学習ガイドにはこんなことが書いてありました。
『音読のしかたに工夫を加えてみましょう。
・声や言葉の調子を使い分けて、茂吉、ねこ、化け物を表現してみる。
・効果音を入れるとしたら、どこに入れたいか考える。
・声を合わせて読むといいところを考える。』
さて、はたして何人の小学校教諭がこの教科書に書いてある『音読の仕方の工夫』について指導できるでしょうか?昨今の教育現場での詳しいことは知りませんが、私が小学生のとき、この内容を指導できる先生はひとりもいませんでした。今は、国語の教員をめざす学生はみんな音読を学んでいるのでしょうか?また、教師になってから、そういったワークショップで勉強しているのでしょうか?残念ながら私はそんな話を一度も聞いたことがありません。あくまで推測ですが、きちんと音読の仕方について説明できる先生はほとんどいないでしょう。また、教科書にもいい加減なことが書いてあります。「効果音を入れるとしたら、どこに入れたいか考える」、「声を合わせて読むといいところを考える」。こんな内容は、音読の仕方の欄を埋めるために無理やり記載したもので、これを考えたり試したりしたところで、国語力も表現力もアップしません。しかも、「茂吉のねこ」で声を合わせるべき箇所は「ころすべし」、「死ぬべし」です。わざわざこのような言葉を子どもたちに言わせる必要はありません。
とにかく、現在の小学校において音読の指導については、教員は無知、そして教科書もいい加減。私の印象ではほぼ誰も手をつけていない領域です。でも、人前で本を読むことを楽しめたり、一歩進んで、文章にふさわしい表現ができるようになったりすると、その後の人生においてはプラスの側面が多いと思います。だからこそ、私はこれまでの仕事などで身につけたことをどんどん子どもたちに伝えていきたいのです。
そんな思いを胸に開いた小学生のための音読教室。保護者の方々も見守る中、およそ1時間半、子どもたちに声を出して作品を読んでもらいました。私がこの日いちばん伝えたかったポイントは、作品に出てくる言葉を、その意味どおりに表現すること。「痛い」は痛いように、「熱い」は熱いように、「うれしい」はうれしいように、「悲しい」は悲しいように素直に表現すればいい。音読でそれを学べば、日常生活でも自分の感情をストレートに表せるようになるでしょう。何に悩んでいるのか、なぜ元気がないのか。そういったことを内に秘めることなく、どんどん出せるようになれば、親が気づいてやれず状況が悪化し、子どもたちの悩み、苦しみが増すようなこともなくなるのではないでしょうか?音読教室では、漢字のたびにつまってしまって思うように読めない児童もいました。いっぽうで、私の一言のアドバイスで保護者のみなさんが驚くような豊かな表現のできた小学生もいました。うまい、へたは関係なく、なにより声を出して読む楽しさを感じてほしいを一生懸命指導しました。反省点としては、普段小学生に何かを教えるということをしていないので、アドバイスするときの言葉が少し難しかったかな?もっとやさしい単語にすればよかったかな?というような点がありますが、音読教室に参加した女の子が「楽しかった」とか「少しのことで変わるんだなあと思いました」などとうれしい感想を話してくれたので、まずまずの手ごたえを感じています。また機会があればぜひ小学生のための音読教室を開いてみたいと考えています。